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人工関節の手術を受けると身体障害者手帳は取得できる?身体障害者福祉法改正の現況を解説

『人工関節の手術をうけたら身体障害者に認定されますか?』、『区役所で身体障害者の申請を勧められたのですが。。』などの相談を受けることは少なくありません。

2014年の3月までは股・膝などの人工関節手術を受けると一律に身体障害等級4級が認定され、医療費の助成や税金控除、公共料金割引などの支援を受けられました。

しかし2014年4月以降、身体障害者福祉法の改正によって人工関節の手術をうけただけでは身体障害者手帳はもらえなくなりました。残念なことに市や区の福祉窓口の担当者も、この改正を知らない人が少なくありません。

【身体障害者手帳とは】

身体障害者福祉法に基づいて、一定の障害を認める18歳以上の方に、都道府県知事から身体障害者認定をされ交付を受けることができます。身体障害者はその障害に応じて1級から7級までの等級が定められています。障害の程度は等級の数字が小さいほど重度で、大きくなるほど障害の程度は軽くなります。下記に示すようなサービスのうち、認定された等級により受けられるサービスも変わります。また、身体障害者7級は法律上、障害者と認定されず身体障害者手帳も交付されません。

【身体障害者手帳で受けられるサービス】

身体障害者手帳により『医療費助成』、『各種税金の控除』、『公共料金の割引』などが受けられます。

(医療費等の助成)

  • 医療費

  • 車椅子や補聴器等

  • リフォーム費用

(税金等の軽減)

  • 所得税

  • 住民税

  • 自動車税等

(公共料金の割引等)

  • 公共交通機関の運賃

  • NHK受信料

  • 高速道路通行料

  • 美術館、動物園等、公共施設の入場料

人工関節の手術をうけると身体障害者手帳の取得は可能なのか?

結論からお伝えすると、人工関節の手術をうけたあと身体障害者手帳の取得は大変困難です。

理由は、これまで人工関節の手術を受けると一律で認定された身体障害等級が、2014年に身体障害者福祉法が改正されたことで、手術をうけただけでは身体障害者手帳は交付されなくなったからです。取得条件が変更になった背景には、医療技術の進歩や医療サービスが充実したことが影響しています。

(身体障害者福祉法の改正)
2014年4月から人工関節手術後の等級認定が改正されました。

【2014年3月まで】
股関節・膝関節・肩関節・肘関節に人工関節等を置換している場合は一律4級

【2014年4月から】
人工関節置換術後の障害の状態(関節可動域など)を評価し、術後の経過の安定した時点での関節可動域等に応じて、4級・5級・7級・非該当のいずれかに認定する

このように人工関節に置換しただけでは障害者手帳は交付されず、関節の可動域制限などの障害が残っている場合のみ手帳が交付されます。この可動域制限などがかなり厳しい基準となっています。通常の人工関節の手術後の患者さんでは当てはまることがほぼありません。

人工関節の手術後、身体障害者手帳を取得できる条件とは

人工関節の手術後に身体障害者手帳を取得するためには、身体障害者福祉法で定められた身体障害等級に該当している必要があります。

人工関節の手術で身体障害者手帳の交付を申請するために定められた条件は、以下のようになります。

  1. 股関節、膝関節、肩関節、肘関節などに人工関節置換術を受けている
  2. 術後の経過が安定した時点で、関節の可動域、動揺性、筋力が規定の等級に該当している
  3. 患者本人に身体障害者手帳の取得を希望する意志がある

条件のなかで厳しいのは、術後の関節の可動域や筋力が以下のように定められた等級認定に該当しているかです。膝と股関節の条件を示します。

膝関節
4級
  • 関節可動域10度以下のもの
  • 徒手筋力テスト2以下のもの
  • 高度の動揺関節、関節変形があるもの
5級
  • 関節可動域30度以下のもの
  • 徒手筋力テスト3に相当するもの
  • 中等度の動揺関節
7級
  • 関節可動域90度以下のもの
  • 徒手筋力テスト4に相当するものまたは2Km以上の歩行ができないもの
股関節
4級
  • 関節可動域10度以下のもの
  • 徒手筋力テスト2以下のもの
5級
  • 関節可動域30度以下のもの
  • 徒手筋力テスト3に相当するもの
7級
  • 小児の股関節脱臼で跛行を呈するもの

また、前述のように7級の場合は身体障害者手帳は交付されず、実際に経済的なサービス、支援は受けられません。

*筋力テストで、2や3はようやく下肢が動かせる程度です。

(なぜ改正されたのか)
一言でいえば数十年前と比べると、現在では人工関節の術後成績が格段に良くなったからです。 30年以上前の人工股関節では、手術後に4週間はベッド上で絶対安静で入院も3か月以上かかったりしました。また脱臼など術後の合併症が多く、10年から20年で再置換術が必要になることも少なくありませんでした。現在は人工関節の手術をしても短期の入院ですし、歩行能力も非常に良好になりました。

手術前よりも手術後の方が痛みもなく、どんどん動けるようになったのに、手術したら身体障害者手帳をもらえるというのも、現実にそぐわないということでしょう。

人工関節の術後で身体障害者手帳を申請する場合に必要な手続き

人工関節の術後、稀に合併症を併発し身体障害者福祉法に定められた身体障害等級に該当する場合があります。そのような場合、身体障害者手帳の交付を申請するためには、役所に提出する書類が必要になります。

必要な書類は、以下の主に4つです。

  • 身体障害手帳交付申請書
  • 身体障害者診断書または意見書
  • 印鑑
  • マイナンバーカード

必要書類のなかでも特に重要なのが、身体障害者診断書または意見書です。

等級を受ける条件で紹介した関節可動域、徒手筋力テストは医療機関に在籍する医師がおこないます。

意見書も同様に医師がリハビリを担当する理学療法士や作業療法士などの意見も考慮したなかで判断をおこなうので、最寄りの医療機関を受診して相談をおこなうようにしましょう。

身体障害者手帳の申請結果がわかるまでの時間

人工関節の手術で身体障害者手帳の取得を申請した場合、交付までに最短で1ヵ月〜1ヵ月半の時間を要します。

理由は、担当となる市町村の窓口に必要書類を提出してから、市町村側で審査をおこなう必要があるからです。

特に審査では、医師の診断により人工関節置換術による身体障害が今後の治療で改善する見込みが薄く、永続するケースであることが重要視されます。

申請するタイミングによっては、一時的な障害として判断されるケースもあります。

障害者手帳の申請は患者本人の任意で、期間に制限なくいつでもおこなえます。

申請をおこなう際には、術後のリハビリを含めて治療の経過を医師に相談して、障害が残るのかどうかを判断してもらうことをおすすめします。

まとめ:現行法では身体障害者手帳を取得することは非常に困難である

人工関節の手術で身体障害者手帳を取得する際の条件や申請方法を解説しました。

現行法では人工関節の手術で身体障害者手帳の取得は非常に困難です。通常の人工関節の手術後の患者様では当てはまることがほぼありません。

背景には、医療技術と医療サービスの充実が影響しています。

しかし、まれに術後の感染症や合併症で障害が残るケースもゼロとはいえません。

障害者手帳の申請は万が一のケースに対応できるセーフティーネットとして活用できる手段であることをご理解したうえで検討してください。

人工関節置換術のご案内|康心会汐見台病院/神奈川県横浜市