体への負担を最小限にする最新の手術法!最小侵襲手術を解説
日本では高齢化社会にともない、人工関節の手術を必要とする人が年々増加しています。従来であれば大がかりだった手術も、医療技術の進化により体に負担がかからない方法で手術ができるように進歩しています。
体に負担がかからない手術法として、「最小侵襲手術」という方法を最近よく耳にします。この記事では、最小侵襲手術の手術方法やメリットを解説します。
最小侵襲手術とは?
最小侵襲手術(MIS=Minimally Invasive Surgery)とは、従来であれば切離していた関節周辺の筋肉・腱・靭帯などの組織を温存し、早期回復・早期社会復帰を可能とする最新の手術方法です。
一般的には、初めておこなう人工股関節置換術に適用される手術法です。医療機関によっては、再置換術(人工関節の入れ替えの手術)でも採用している施設もあります。
最小侵襲手術のメリット
最小侵襲手術には、次のようなメリットがあります。
関節周辺の筋肉・腱・靭帯などの組織を温存できる
一般的に従来より行われている人工股関節置換術の場合、切開する皮膚の範囲は15~20cm程度であり、さらに皮膚の下にある関節周辺の組織も切離し、十分な視野を確保したうえで手術をおこなっています。
一方、最小侵襲手術では、切開する皮膚の範囲は、最少で5~6cm、最大でも8~12cmです。切開範囲が一般的な人工関節置換術の約半分から3分の1になります。しかし最小侵襲手術で最も大切なことは創の大きさではなく、関節の動きを担う、皮膚の下に存在する筋肉や腱、靭帯を温存できるかどうかであると思います。これら関節周辺の組織を温存することで術後速やかに筋力、関節機能は回復し、また術後の疼痛も従来法より軽減します。組織を温存できること、これが最小侵襲手術の最大のメリットであり、ひいては体への負担を最小限にすることだと思います。
早期に機能回復が得られる
上記のように最小侵襲手術では、筋肉や腱、靭帯などを切離しません。従来法では、切離していた組織は縫い合わせていましたが、術後に縫い合わせたところがほつれてしまったりすること(縫合不全)が少なくありませんでした。また関節周辺の組織を切離したため、脱臼の危険性があり、術後一定期間または生涯にわたり肢位制限(正座やあぐらなどをしてはいけないこと)を設けなければならないことが多くありました。しかし最小侵襲手術では組織を切離しないため、このような縫合不全を心配することなく、また肢位制限を設けることなく術後早期から十分なリハビリテーションを開始できます。そのため従来法よりも脱臼率は低く、速やかに筋力や歩行能力の回復を得られることが報告されています。
早期退院と早期社会復帰の実現
従来の手術法では、1ヵ月以上の入院が必要なケースも多くありました。一方で最小侵襲手術では施設により多少の差はありますが、早ければ1週間前後、通常では2週間程度で退院できます。体への負担が従来法より少なく、術後の体力回復、機能回復に優れているためこのような入院日数の大幅な短縮が可能となりました。
入院日数の短縮で、早期の社会復帰が実現しています。
ただし、入院期間には個人差があるため、十分なリハビリをおこなってから退院をすすめられる場合もあります。
最小侵襲手術の注意点
最小侵襲手術は、上述のように従来法と比べ手術をうける患者様にとってこれといったデメリットはないでしょう。しかし高度なテクニックを必要とする手術法のため、どんな症例でも、どこの病院でもおこなっているわけではありません。
まとめ
現在の人工関節手術は、関節の機能を早期に改善するだけでなく、体に負担がかからないように手術をおこなうことに重点が置かれています。
最小侵襲手術により、体への負担を最小限にとどめ、従来の手術法よりも早期に社会復帰することが実現されています。
一方で、高い技術力が必要で、熟練した医師でなければ手術が難しいうえ、患者さんの体格、関節の変形の程度などにより、手術がおこなえない場合もあります。
最小侵襲手術を検討される場合、まずは、股関節専門医への相談をおすすめします。
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