人工股関節の手術を受けた方がやってはいけないことを解説
人工股関節置換術の手術後、ほとんどの患者様は順調な経過をたどり、痛みのない快適な生活に戻られています。しかし、人工関節は人工物(チタン合金など)でつくられた関節です。
人工関節に気を配り、動作や姿勢、運動などでも注意しなければならないことがあります。
今回は、人工股関節の手術を受けた患者様が、「やってはいけないこと」を詳しく解説します。
人工股関節の術後にやってはいけない姿勢や動作
人工股関節の手術後、まれに人工関節がはずれる脱臼が起こることがあります。次のような姿勢や動作は、人工股関節の脱臼につながる恐れがあるため制限が設けられていました。
- 横すわりやペタンコすわり、あぐらをかくようなすわり方をしない。
- イスにすわるときは、脚を組まない。
- イスにすわるときや、立ち上がるときは、反動をつけずにゆっくりと動く。
- しゃがむ姿勢など、股関節が大きく曲がるような動作をしない。
- 股関節を大きく曲げて、重い荷物などを持ち上げない。
- 和式トイレを使わない(洋式トイレを使う)。
- 前かがみで下着や靴下を履かない。
- 深いソファーに腰かけない。
- 風呂場では、低いイスにすわらない。
しかし現在、筋肉や靭帯、腱を切離せずに手術を行う方法が普及してきており、従来法よりも脱臼率が改善しています。施設によっては一生涯、全く制限を設けないで良好な結果が得られている施設も少なくありません。術後に姿勢などの制限があるのか、担当医に確認するとよいでしょう。
やってはいけない運動やスポーツは?
人工股関節の手術後に適度な運動をおこなうことは、関節の周辺の筋肉を鍛え、関節の安定性が高まります。骨が刺激されることで、人工股関節を支える骨が強くなり、関節がゆるむリスクが低減します。
特に高齢の患者さんは、運動することでバランス感覚が養われます。転倒の予防にもつながるため、積極的に運動することが推奨されています。
ただし、過度に股関節を曲げたり、ひねったりするスポーツや運動は避けたほうがよい場合もあります。次のようなスポーツをする際は、注意が必要です。
- 野球
- ソフトボール
- バスケットボール
- バレーボール
- サッカー
- テニス
- ラグビー
- 柔軟
- 険しい山での登山
- ボルダリング
こうしたスポーツは、股関節に激しい衝撃を与えます。人工関節の摩耗や破損、脱臼につながる恐れがあるため、避けたほうがよいといわれています。
万が一人工関節の摩耗や破損などが生じた際は、人工関節の入れ替えの手術が必要になります。しかしスポーツ活動もその方によっては社会生活を営むうえで欠かせないものであったり、スポーツが生きがいの方も多いでしょう。そのため定期受診を欠かさず、また再手術のリスクを了承されるのであれば上記のような激しいスポーツや肉体労働を許可する施設も増えてきています。
関節の状態や筋力などには、個人差があるため、どういうスポーツや運動であれば、おこなってよいのか、主治医や理学療法士と相談したうえで、おこなうようにしてください。
日常生活で工夫するとよいこと
人工関節の手術をうけた方は、日常生活で次のようなことを心がけるとよいでしょう。
- 外出時には、階段を避けてエスカレーターやエレベーターを利用する。
- 料理など炊事をするときは、立ちっぱなしでなく、すわってできることはすわっておこなう。
- 掃除の際は、モップやホースを伸ばして、中腰になるのを避ける。
- 洗濯物は、洗濯かごを台に置いて、かがむ姿勢にならないようにする。
- 適度な運動やダイエットをおこない、適正な体重を維持し、股関節への負担を少なくする。
- 布団で寝ている場合は、ベッドに変え、寝たり起きたりする際の股関節の負担を少なくする。
こうした日常動作に気を配ることによって、人工関節の摩耗や損傷、脱臼を防ぎ、関節を長持ちさせられます。しかし従来と比べ人工関節の素材や耐久性は飛躍的に向上し、手術手技も改良されているため、以前ほど制限を設けない施設も多くなってきています。
転倒を防ぐためにできること
高齢者の約10%は、転倒により骨折しているといわれています。人工関節を入れた方も例外ではありません。特に人工関節の周囲が骨折してしまうと手術治療が必要となることが多く、転倒には気をつけなければなりません。次のような点に注意するとよいでしょう。
- 物につまずき、転倒しないように意識して生活を送る。
- 外出時には杖(つえ)やストックを使う。
- 散歩やウォーキングなどの運動を習慣にして、筋力やバランス感覚を鍛える。
- 階段や風呂場、トイレなどに手すりを設置する。
- カーペットなど、つまずきやすい敷物をしかない。
- 革靴ではなく、運動靴など滑り止めがついた靴を履く。
慣れ親しんだ普段の生活にこそ、危険が潜んでいます。常に、転倒しないように、気をつけて生活する意識を持つことが大事です。
まとめ
人工関節の手術をうけたなら、今後一生人工関節とつき合っていくことになります。人工関節を長持ちさせるために、日常生活で心がけることや生活環境を整えることで、生活をよりよいものにして、長く人生を楽しむことを目標にしていきましょう。
近年、従来と比べ人工関節の素材や耐久性は向上し、手術手技、麻酔方法も常に進歩しています。そのため以前ほど制限を設けない施設も多くなってきていますが、前述のように人工物であるため永久に持つかどうかは現在のところ不明です。定期的な受診により骨や人工関節の状態を確認することは非常に重要であることがわかると思います。