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人工関節の手術は安全?人工関節のメリット・デメリット

現在、人工関節の手術は膝・股関節などの変形性関節症に対して確立された、非常に有効な治療法のひとつです。
その証拠として人工関節の手術件数は増加傾向で、2020年には本邦で年間15万件以上の手術が行われ、10年前と比較すると、2倍以上に増えています。
その理由として社会の高齢化が進んできたことや、人工関節の素材の改良、手術法や麻酔法が進歩したことが挙げられます。しかし最も大きな理由として、人工関節という治療法が劇的な症状改善を期待できるからに他なりません。辛い痛みに悩んでいる方にとって、大きな福音となっています。
しかし、手術によって症状の改善が見込めるとわかっていても、手術に対する不安は誰でもお持ちのことと思います。正しい知識を得ることで、その不安が軽減するかもしれません。

この記事では、人工関節の手術を検討している方へ、人工関節のメリット・デメリットを解説します。

人工関節のメリットについて

人工関節のメリット・有益性は主に以下に示すようなものが挙げられます。

  • 痛みを大幅に和らげることができる。
  • 関節が安定し歩行しやすくなる。歩容が良くなる。
  • 脚が真っ直ぐに伸び、姿勢が良くなる。
  • 他関節への負担が軽減される。(例えば膝の痛みが強い場合、腰や足首に大きな負担がかかっています)
  • 活動範囲が広がり、生活の質が向上する。

人工関節の最大のメリットは、痛みが劇的に軽くなることです。歩行時の辛い痛みから解放されることでとても歩きやすくなります。今まで脚を引きずって歩いていた方が安定した足取りで以前より早く歩けるようになり、歩容も改善します。特に膝の場合、O脚、いわゆるガニ股で歩行されていた方も、手術後は脚が真っ直ぐに伸び姿勢がよくなるのもメリットといえるでしょう。

また、股関節や膝関節に痛みがあると、知らず知らずのうちにかばってしまい、隣り合う関節に大きな負担がかかっています。末期になると腰や足首の負担は相当なもので、そちらの関節の変形も不可逆的(もとにもどらなくなること)になってしまう可能性があります。手術により痛みから解放されることで、これら負担のかかっていた関節にも良い影響を与えることができます。

今まで痛みのためにあまり積極的に外出せず家の中に閉じこもっていた方でも、買い物はもちろん旅行やスポーツ活動など、できなかったことややりたかったことができるようになり、生活の質が向上し充実した人生が待っているはずです。

人工関節のデメリットについて

人工関節は外科手術なので100%安全なものではありません。手術なので合併症が起こる可能性があります。ただ近年は手術手技や麻酔手技が改良され、さらに手術機器も大きく進歩しており、以前と比べそれほどリスクの高い手術ではなくなっています。

人工関節のデメリットは、以下のような合併症が起こる可能性があることです。

  • 細菌感染に弱い
  • 人工関節の摩耗(すり減ること)、ゆるみが発生する可能性がある
  • 下肢に血栓ができる可能性がある

人工関節は人工物(チタン合金など)のため、血液の流れがありません。そのため細菌に対する抵抗力はほとんどありません。ひとたび感染してしまうと、人工関節をもう一度入れ替える手術が必要になる場合もあります。特に術後数年、順調に経過している方でも虫歯や水虫などから細菌が血流に乗って人工関節に感染してしまう可能性があります。そのため、日頃から体調管理や虫歯などは放置せず治療するようにしましょう。

人工関節のゆるみや摩耗は無症状で経過することがほとんどです。ご本人が気付かないうちに摩耗が進行し、痛みなどの症状が出現したときには骨の大部分が溶けていることも稀ではありません。そうなると再手術の難易度は上がります。このような理由から定期的な受診で人工関節に異常がないか確認することは非常に重要です。摩耗やゆるみがあっても早期に発見されれば再手術は現在では施設によりそれほど困難ではなくなっています。

下肢の血栓は人工関節置換術特有の合併症ではなく、腹部手術や婦人科手術でも起こり得る合併症のひとつですが、生命に関わる重大な合併症です。
深部静脈血栓症は、脚の血管に血の塊(血栓)ができてしまう病気です。
血栓症の怖いところは、血流に乗って血の塊が移動してしまうことにあります。

もし、深部静脈血栓が血流に乗って肺や脳、心臓などの細い血管のところに詰まってしまうと、肺塞栓症や心筋梗塞、脳梗塞などの命に関わる病気につながります。詰まってしまうと手遅れになることも少なくないため、予防がとても重要になります。

具体的には、理学療法士による血栓予防運動、フットポンプの使用、血の塊ができにくいように血流がサラサラになるお薬を内服する、血栓予防の専用の靴下を履くなどの処置をおこないます。

人生において人工関節の手術を受けることによるメリット・デメリットを考える

変形性関節症などで関節の痛みがある場合、どんな治療を受けるのか、最終的に治療法を選ぶのは患者様自身です。

当然ながら変形性関節症だからといって必ず手術をしなければならないわけではありません。

特に立ったり座ったり、階段を昇り降りしたりするときに痛みを感じ、じっと動かなければあまり痛みを感じないということもあります。そのような方は『あまり痛みがないので手術はしたくない』、『日常生活にそれほど困っていないから大丈夫』とおっしゃります。

しかし実際、そのような方は痛みのためずっと家に閉じこもっていたり、外出はほとんどしないことが多いようです。つまり動かないからあまり痛みを感じていないということが少なくありません。

手術がこわいからという理由で日常生活のなかで我慢を重ね、家に閉じこもっていたり、外出を控えるような不自由な生活を続けることは、逆に大きなデメリットになります。

年齢を重ねていくと必然的に運動能力は落ちていきます。痛みのためにあまり動かない生活を続けると、筋力、骨量とも相当落ちてしまい運動能力の低下は早まるでしょう。骨粗鬆症やロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動機能が低下した状態)、認知機能の低下や心肺機能の低下など様々な病気を引き起こしやすくなります。

一歩踏み込んで手術を受け、自分の脚で歩いたり旅行に出かけたり、スポーツ活動を再開することで運動能力の保持と改善が期待できます。生活の質が向上し、健康寿命が延びることでしょう。これは大きなメリットだと思います。

残りの人生の長さを考え、どんなふうに生活していきたいのか、どんなことがやりたいのかをイメージし、長期的にみて手術を受けた場合のメリット・デメリット、手術を受けなかった場合のメリット・デメリットを考えるのも、治療選択の一助になるかもしれません。