当院の脊椎疾患(せぼねの疾患)の治療について
脊椎(せぼね)疾患の症状は、腰痛、歩行障害、手足のしびれ、麻痺など幅広く、病名も下記のように多岐にわたります。
- ●脊椎の主な疾患
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- 脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)
- 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
- 椎間板(ついかんばん)ヘルニア
- 頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)
- 靭帯骨化症(じんたいこっかしょう)
- 脊柱変形(せきちゅうへんけい)
- 脊椎分離症(せきついぶんりしょう)
- 脊椎すべり症(せきついすべりしょう) など
病名によりそれぞれ治療法は異なり、また同じ病名でも、症状の原因が神経の圧迫によるものか背骨の変形によるものかによって、治療方針が大きく変わります。
さらに、脊椎疾患に限ったことではありませんが、骨粗鬆症、糖尿病、心疾患、慢性腎臓病など個々に疾患を抱えている患者さんが多くおられますので、様々な状況を総合的に判断してご相談の上、治療方針を決めることになります。
治療は原則として保存的治療(理学療法、薬物治療、神経ブロック等)を徹底して行うべきと考えておりますが、経過や検査結果を踏まえ病状の改善が乏しい場合は手術治療を検討します。その際は、患者様の精神的・身体的負担・合併症発生のリスク等を勘案し、症状に応じた最適な術式をご提案致します。
脊椎圧迫骨折
当院では、脊椎圧迫骨折の治療に力を入れています。まずは、脊椎圧迫骨折の背景となる骨粗鬆症治療と、コルセットや薬の治療を十分に行う必要があります。その上で、脊椎圧迫骨折による腰や背中の痛みにお悩みの患者さんにおいては、手術的治療を検討することがあります。当院では、最も身体への負担の小さい経皮的バルーン椎体形成術(圧迫骨折した部位に針を通しその中で骨セメントを用いて治療する手術法)を行なっています。
詳しくは、「当院の脊椎圧迫骨折治療とは」をご覧ください。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、腰椎(腰の骨)の脊柱管(背骨の神経の通り道)が狭くなり症状を呈する疾患です。脊柱管が狭くなる原因として、加齢、労働、脊椎の疾患(すべり症や分離症など)による影響などがあります。腰部脊柱管狭窄症では脚の異常な感覚を伴う間欠性跛行(休み休みでないとわずかな距離しか歩けない状態)という症状が特徴的です。また、脚のしびれや痛みが一緒に出ることも多く、進行すると運動麻痺による歩行障害や、肛門周囲の異常感覚や排尿排便の障害が出現することもあります。診察時の状態、血流の検査、レントゲン、CT、MRIなどの情報を総合的に考察して症状の原因を特定します。腰部脊柱管狭窄症の治療の多くは、歩く時に杖やシルバーカー(手押し車)を使う、または自転車こぎといった日常生活の動作の指導やリハビリテーション、コルセット、内服薬や神経ブロックなどを行います。しかしながら、症状が進行し日常生活に支障が出ている場合には手術をお勧めすることがあります。 当院における手術は、生活環境を含めた患者さんの背景や現在の状態などから長期的に最適な方法を選択し、身体への負担が最小限となるような手術法をご提案しています。当院では、安全性を第一に、身体への負担を最小限にするため、手術用顕微鏡や拡大鏡を用いた手術を行っています。
手術の内容によって様々ですが、入院期間は約2週間程度です。その後も治療やリハビリが必要と考えられる場合は、リハビリテーション病棟へ転棟も可能です。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、腰椎(腰の骨)の間にある椎間板が腰の神経に向け突出し、神経の症状を出す疾患です。神経の症状として、お尻や脚の痛みやしびれ、運動麻痺、排尿排便の障害などがあります。MRI検査上、椎間板の突出があっても症状がほとんどないこともよくあり、今お困りの症状と診察・検査所見が一致することが重要です。 治療はまず、内服薬、ブロック注射などの保存的治療を行いますが、なかなか痛みがとれない場合、激痛で日常生活制限が強い場合、運動麻痺や排尿排便の障害が進行する場合は、ヘルニア摘出術を検討します。当院では手術用顕微鏡または拡大鏡を用いて手術を行っています。顕微鏡や拡大鏡を用いることによって、皮膚を切開する範囲は3cm程度まで縮小でき、より安全な手術が可能となります。手術翌日には歩行でき、入院期間も3日間程度での手術治療が可能です。
頚椎症性脊髄症
頚椎症性脊髄症は頚椎(首の骨)の変形、椎間板の突出、靭帯の肥厚、骨化などが原因で、脊髄の通り道である脊柱管という部分が狭くなり、脊髄を圧迫することによって生じる疾患です。腕や手のしびれなどから発症し、進行すると巧緻運動障害(手の細かい動きがしにくい状態)、頚椎以下の運動麻痺、歩行障害(バランスがとれずスムーズに歩けない状態)といった症状が出現します。症状がしびれのみの場合は様子をみることが多いですが、巧緻運動障害、運動麻痺、歩行障害が進行する場合は、リハビリテーション・内服・注射等の保存的治療では症状の進行が抑えられず、進行を止めるための手術が必要となる場合があります。
当院においては、主に椎弓形成術という手術を行います。首の後ろを5−10cm程度切開して筋肉を剥がし、頚椎の椎弓という骨の一部を削って脊柱管を開大することによって、脊髄の圧迫を解除します。入院期間は約2週間、その後リハビリテーション病棟に転棟することが多いです。また、ぐらつきがある頚椎に対してはスクリューなどの金属で固定をするような手術、障害部位されている部位が限局的な場合は前方固定術(首の前の方から脊髄を除圧する手術)も行っており、患者さんそれぞれの病態に応じて適切な手術法を選択し、ご提案できるよう心がけています。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアは、頚椎(首の骨)の間にある椎間板という組織が神経に向かって突出し圧迫することで生じる疾患です。椎間板ヘルニアによって頚椎の神経が圧迫されると、手足の痛みやしびれなどのさまざまな症状が出てきます。椎間板ヘルニアが圧迫している神経の部位により、神経根で圧迫を受けているのか(神経根症)、神経が脊髄で圧迫を受けているのか(脊髄症)によって現れる症状は異なります。
神経根症に特徴的な症状として、主に後頚部から肩から手指にかけての痛み・しびれが片側に現れます。頚部をそらす動作で神経の圧迫が強くなり症状が強くなるのが特徴です。脊髄症に特徴的な症状として、巧緻運動障害(手の細かい動きがしにくい状態)、頚椎以下の運動麻痺、歩行障害(バランスがとれずスムーズに歩けない状態)が現れます。神経根症に対しては主に内服やブロック注射等の保存的治療が有効なことが多く、脊髄症に対しては保存的治療が無効なことが多いです。どちらも、保存的治療を行なっても症状が進行する場合は手術が必要になることがあります。
当院における手術的治療として、障害部位が限局的な場合は、首の前方から椎間板ヘルニアを除去し骨盤の骨を一部頚椎に移植して固定します。元々広範囲に脊柱管が狭い場合は、首の後ろから椎弓形成術を行い神経の圧迫を解除することがあります。症状の程度によりますが、入院期間は約2週間、その後リハビリテーション病棟に転棟することが多いです。
頚椎後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症
脊柱管(背骨の神経の通り道)を含む頚椎(首の骨)は、複数の靱帯によって補強されています。これらの靱帯のうち、神経の前側にあり脊椎を縦につないでいるものが後縦靱帯、神経の後ろにあり脊椎をつないでいるのが黄色靭帯です。これらの靱帯が通常の何倍もの厚さになり、なおかつ骨の様に硬くなり(靱帯の骨化)徐々に神経を圧迫してくるのが後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症です。後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症は合併することがあります。後縦靭帯の骨化は頚椎に生じることが多く、黄色靭帯の骨化は胸椎(背中の骨)から腰椎(腰の骨)に生じることが多いです。この病気は原因不明で治療方法が確立しておらず、医療費助成制度の対象とされています。頚椎や胸椎の神経が圧迫されると、手足の痛みやしびれなどのさまざまな症状が出てきます。靭帯の骨化が圧迫している神経の部位により、神経根で圧迫を受けているのか(神経根症)、神経が脊髄で圧迫を受けているのか(脊髄症)によって現れる症状は異なります。頚椎の神経根症に特徴的な症状として、主に後頚部から肩から手指にかけての痛み・しびれが片側に現れます。頚部をそらす(後屈)動作で神経の圧迫が強くなり症状が強くなるのが特徴です。脊髄症に特徴的な症状として、巧緻運動障害(手の細かい動きがしにくい状態)、頚椎以下の運動麻痺、歩行障害(バランスがとれずスムーズに歩けない状態)が現れます。徐々に症状が表れることが多いですが、転倒をきっかけに急に症状が悪化することも多いです。
神経根症に対しては主に内服やブロック注射等の保存的治療が有効なことが多く、脊髄症に対しては保存的治療が無効なことが多いです。どちらも、保存的治療を行なっても症状が進行する場合は手術が必要になることがあります。後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症は、数年単位で骨化が進み神経の圧迫が大きくなることが分かっていますので、検査結果から将来を予測し、症状が軽微でも手術的治療を選択した方が良い場合があります。手術法は首の前から行う方法と、後ろから行う方法があります。術式の選択は、骨化部の広がり、患者さんの年齢や合併症のリスクなどを考えておこないます。前方・後方の手術が同時に必要になることもあります。前方からの手術はリスクが高いことを鑑みて、後方からの手術をご提案することが多いです。
脊柱変形(小児側弯症、腰曲がり、首下がりなど)
正常な脊柱の配列は、頚椎(首の骨)から腰椎(腰の骨)までが生理的に弯曲していますが、この脊柱の生理的な弯曲が乱れた状態が脊柱変形です。原因が分かっていないことも多く、小児から成人・高齢の方まですべての年代で発症する可能性があり、弯曲のタイプも前弯症(前に曲がる)・後弯症(後ろに曲がる)・側弯症(横に曲がる)など様々です。変形の程度によっては症状を出さない場合も多いですが、脊柱変形によるバランス不良から強い腰痛、背中から首にかけての痛み、胸焼けや転倒しやすい状態、外見上の問題等の症状が生じることがあります。
小児と成人で治療方針は大きく異なりますが、脊柱変形の治療はリハビリテーションやコルセット、必要に応じて内服やブロック注射等の保存的治療から開始します。それらの治療でも改善せず症状が悪化する場合、手術が必要になることがあります。脊柱変形の手術は、全身状態や併発症状の評価、生活環境、社会的背景、合併症のリスク等の様々な要因を、他の脊椎疾患と比べてもより慎重に判断して手術をご提案するようにしています。
脊椎分離症・脊椎すべり症
脊椎分離症は、腰椎(腰の骨)の一部に亀裂が入った状態です。スポーツ活動などで繰り返して腰椎をそらしたり回したりすることで起こります。一般の人では5%程度、スポーツ選手では30%の人が分離症とも言われています。脊椎すべり症は、腰椎が前後にずれている(すべっているように見える)状態です。脊椎分離症に伴って起こるすべり症(分離すべり症)と、それに伴わないすべり症(変性すべり症)に分けられます。分離すべり症は腰椎に入った亀裂が原因で脊椎の安定性が悪くなり、腰椎が変形して腰痛や脚の痛みなどの症状が生じます。脊椎分離症に伴わないすべり症(変性すべり症)は、腰椎間の椎間板の異常な変化や関節の変形によるものが多く、腰部脊柱管狭窄症の原因にもなりえます。脊椎分離症では、自覚症状が出ない場合も多いですが、長時間の立ち仕事や、腰を反らせたり横に曲げたりした時に腰痛が生じる場合があります。脊椎すべり症では、腰痛の他に脚の痛みやしびれなどの神経症状を生じる場合が多く、ひどくなると運動麻痺、排尿排便の問題、性機能障害を生じることがあります。
脊椎分離症や脊椎すべり症の治療は、リハビリテーションやコルセット装着、内服やブロック注射等の保存的治療から開始します。保存療法で骨がつかない場合や日常生活に支障をきたす症状が出ている場合は、手術をご提案することがあります。手術は、分離部の固定を行う場合と腰椎間を固定する場合がありますが、すべり症の程度によっては固定しない手術を選択することもあります。